上島会計事務所便り

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2012年05月15日(火)

『日本財政のゆくえ』 [研修報告]

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『国家は破綻する』

TKC主催生涯研修のご報告です。今回は名古屋大学大学院経済学研究科教授小川光さんによる『日本財政のゆくえ』という講演でした。

日本財政と言えば1,000兆円超という想像もつかない大きさの財政赤字で、連日、その深刻さについて取りざたされています。以前であれば「国家の財政が破たんする」ということが想像も付かない非現実的なものに思われましたが、ギリシアの財政危機を目の当たりにして、現実に起こり得ることなんだという現実を突き付けられた思いです。
しかし、では果たして日本の財政は破たんするのか!?という疑問に対する回答は得ることが出来ません。今回の講演ではその疑問に対する最も「らしい」答えを聞くことが出来たように思います。


まず小川先生によればそもそも国家の破たんというものはこの近代200年で見ても平均して年1回以上起きており、何ら珍しいことでもないとのこと。そうした現実に起きた国家の破たんをアメリカのエコノミストが紐解いた『国家は破たんする』という本も発売されているとのことでした。
そういわれてみると確かについ10年ほど前にもアルゼンチンやロシアなどで債務不履行が起きたというニュースが世間を騒がせたことがあったことを思い出し、
国家破綻がそれほど珍しいことではないということが分かりました。

そして日本の財政は破たんするのか!?というと、ほぼ確実に破たんするというのが先生の認識だったように思います。
それは素人目に見ても疑いのないことのように思うわけですが、ただ破たんしないでやり続けていけるというのを楽観的シナリオ、国家の経済が壊滅的な打撃を受け、生活もままならなような状況となるのを悲観的シナリオだとすると、答えはその間に落ちるだろうとのこと。
我々は国が破たんするというと、まるで日本が世界地図から消えてしまう、世界の終りのようなイメージを持ってしまいますが、実際には上記のようにこれまでにも破たんした国家は多数ありながら、ではそれらの国々がどうなったかと言うと、決して世界から消えてしまったわけではなく、また他国に侵略されたわけでもなく、そこには変わらず生活している人たちがいます。(もちろん以前に比べれば生活は楽ではないでしょうが)

こう考えてみると、楽観、悲観の二元論的に物事を捉えないで、起こり得る現実を冷静に見据えるというのは非常に実務的だなと感じました。


ちなみに先生によると日本は過去、2度ほど財政危機を迎えたことがあるとのことでした。1度目は1900年代の日露戦争のとき、2度目は世界大戦の時。

このときも債務残高がGDP比で100、あるいは100を大きく超えたのですが、日本はこの2度の危機を乗り越えてきました。

ではどのようにして乗り越えてきたか。
先生によると債務残高が返済可能な水準に収束するには、3つしかないとのこと。その3つとは

 A インフレが起きる
 B 経済成長
 C 財政改善


で、日露戦争のときはAが4割、Bが3割、Cが3割とバランスよく貢献し、収束しました。一方世界大戦の時にはA、年率200%もの凄まじいインフレによってのみ終息したとのこと。インフレが起きて債務が収束するとはつまり1,000兆円という債務も今の貨幣価値が1,000分の1になってしまえば、
実質1兆円になるということです。
そして今回の債務危機は過去2度の債務危機を上回る水準で、また現在の財政状況等を踏まえると、Aによる収束以外には考えにくいということでした。
従って遠からず財政危機が発生した暁には、急激なインフレが発生する可能性が高いということで、それにより我々の生活水準の低下も避けられないだろうと思われます。

ただ、上でも述べたようにそうなったからといって日本という国が消滅するわけではありませんし、また過去の国家破綻の例を紐解いても10年前後というスケールである程度状況は収束するとのことですから、悲観しすぎる必要はないだろうと思います。

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内閣府の世代会計グラフ

今回の講演でもう一つ、大変興味深かったのは、財政的な世代間格差の話です。

先生によると今の財政赤字、そして現制度による将来の財政負担による利益の多くは上の世代の人たちによって享受されており、若い世代はそのつけ回しを受けているとのこと。

我々が生涯支払う税金等の負担と、逆に国家から受ける受益を比べた時に、負担と受益のどちらが多いか、その世代間格差を問題にした『世代会計』という学問領域が最近注目を浴びているそうで、つい先日もイギリスの例を取り上げた記事が日経に出ていました。

さて、この世代間格差ですが日本では55歳以上の人たちは受益が超過しているものの、それ以下の世代では全ての世代で負担が超過しており、負担のピークは現在の30代前後で、2500万円超の負担超過とのこと。またこれから生まれてくる子供たちも1680万円の負担超過ということで、彼らは生まれながらにして既に1680万円の借金を背負わされているということだそうです。(内閣府作成のグラフを載せておきましたが、こちらは1999年ベースの上に、先生の資料と出典が異なるため、数字に違いはありますが、傾向としてはほぼ同様のことば読み取れます)

そしてこの世代間格差を世界的に見た時、日本は突出して大きく、若い世代に負担を付け回している状態を称して、「日本は財政的幼児虐待が最も酷い」と言われているそうです。


最近よく言われるような、生まれた時から豊かな国に生まれたせいで若い世代はハングリーさに欠け、そのせいで世界的な競争で遅れを取りつつあるという批判はもっともだと思いますが、その一方でこのような話を聞くと、「あなた方、上の世代も利益を先食いしてそのツケを若い世代に回してるじゃないですか」と言いたくもなります。(笑)


しかしそんな犯人捜しをしたところで何の意味もありませんね。我々がやらなければならないことは将来の世代に負担を残さないよう、そして若い世代に夢を与えられるような、そんな日本にすることなのかなと、そんなことを思ったりした次第です。
(もちろん世代間格差を是正するような制度改正は行うべきでしょうが)


そんなわけで今回はちょっと難しい内容ではありましたが、マクロ的に日本の置かれた状況を分かりやすく捉えることのできた、非常に興味深い研修でした。


Posted by 上島会計 at 16時52分

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